デス・オーバチュア
第230話「人形戦隊フェアリーファイブ」



その一撃は、突然天空からもたらされた。
赤みを帯びた黄色(琥珀色)の光柱が、シルヴァーナとセシアの間を分かつように降臨し、琥珀色の爆発が二人を吹き飛ばす。
「アースノヴァ!?」
シルヴァーナは黒の極光の幕に包まれて宙に浮いていた。
爆発の衝撃で宙に浮かされこそしたが、極光の幕に包まれている彼女は一欠片のダメージも受けていない。
「いや、そんなはずは……」
今の琥珀色の一撃は確かにアースノヴァに酷似していた。
だが、それだけはありえない。
アースノヴァの使い手であるセレスティナは、『この体』の中に居るのだ。
「つ!?」
上空から物凄いスピードで、黄金の輪……『光輪(こうりん)』が飛来する。
光輪は、シルヴァーナを包み込む幕ごとスッポリと輪で填められる程に巨大化し、極光の幕に正面から激突した。
「く……呪が光に掻き消される!?」
無数の黒い呪い文字を光輪の輝きが物凄い勢いで消し去っていく。
「離れ……」
シルヴァーナが魔砲を放つより速く、光輪は自ら飛び離れ、空の彼方へと消えていった。
『爆っ!』
一息つく間も与えず、シルヴァーナの目前の空間がいきなり爆発する。
「なっ……呪が崩れ……」
「チェストォォ!」
いきなり空から飛来した何者かが、光輪と爆発の連続攻撃で構成が乱れつつあった極光の幕に大剣を叩きつけた。
シルヴァーナは幕に包まれたまま隕石のように地上へと落下し、大地に激突する。
「やっぱり駄目か……天至輪(てんしりん)以外、風爆(ふうばく)も私の剣も殆ど効いちゃいない」
天空からの襲撃者は、シルヴァーナの後を追うように地上へと降りていった。



地上にできた巨大なクレーターの中心にシルヴァーナは居た。
彼女を包み込んでいた極光の幕は消え去っている。
光輪によって呪い文字をかなり削られ、その結果できた『傷』を風の爆発で広げられ、トドメとばかりに剣で叩きつけられた。
大剣の一撃自体には耐えきったが、地上激突の際に極光の幕は殆ど四散してしまい……崩壊寸前の幕を自ら解除したのである。
「いきなり三人がかりか……やってくれますわね……」
シルヴァーナはクレーターの中から飛び出し、いまだ健在な大地に足をつけた。
「はぁい、久しぶり? 私が誰だか解る? 白銀の亡霊さん?」
陽気というか、軽い調子の声がシルヴァーナを出迎える。
シルヴァーナに大剣を叩きつけた襲撃者が堂々とそこに立っていた。
「…………」
鋼の全身鎧を装備した女騎士。
兜こそしていないが、上半身は完全に鋼で固められていた。
露出しているのは、長手袋のように二の腕(肘と肩の間)まで覆った籠手と、肩当ての僅かな隙間から覗く白地(下服の色)ぐらいである。
下半身は鎧の下服(下に着ていると思われる服)の白いロングスカートで覆われていた。
いや、覆われたといっても白いスカートは真ん中に深いスリットが入っていて、オーバーニーソックスのような具足で武装された両足が綺麗に覗いている。
胸甲の中心には紫水晶(アメジスト)が埋め込まれ、その周りを金剛石(ダイヤモンド)、紅玉(ルビー)、青玉(サファイア)、翠玉(エメラルド)、黄玉(トパーズ)、黒金剛石(ブラックダイヤモンド)が六芒星を描くように配置されていた。
「……覚えていない? それとも眼中にもなかった?」
深い緑色の髪は柔らかくボリュームがあり、腰まで余裕で届いている。
瞳もまた髪と同じ深い緑色の輝きを放っていた。
「そうですわね……あたくし個人は貴方に対する認識や記憶は薄い……でも、あたくし『達』はちゃんと貴方が解るし、覚えてもいる……」
シルヴァーナは左手を横に突きだし、掌の前面に黒い極光で構成された巨大な球体を出現させる。
「……コレでしょう、貴方は?」
球体の中から、深く暗い輝きを放つ黒一色の剣を引き抜くと女騎士へとかざした。
「ええ、そうよ、解っているじゃない」
緑色の女騎士はクスリと悪戯っぽく微笑する。
彼女の右手には、片面が『腐蝕』した鋼の大剣が握られていた。
「名も伝説もないとはいえ、妖精が鍛えし剣が一太刀でこの様……本当、あんたの呪い……憎悪って恐ろしいわね〜」
ゆうに150cmはあろう大剣を片手でビュンビュンと振り回す。
「……じゃあ、行っていい?」
「ええ、どうぞ……」
「遠慮なく行きます〜!」
「……葬炎舞(そうえんぶ)!」
女騎士が駆けだした瞬間、横に一閃された黒一色の剣から噴き出した黒炎が彼女を呑み尽くした。



戦闘は一瞬で終了した。
シルヴァーナの目前に立った女騎士が、根本から刃の無くなった大剣を突きつけている。
「やっぱ、こんななまくらじゃ白銀の亡霊は斬れないか……」
女騎士は、剣としての役目をはたせなくなった大剣を塵のように投げ捨てる。
「あんたは私の速さを捉えきれない、でも、私もあんたを倒しきれる武器がない……引き分けかな? じゃあ、そう言うことで」
シルヴァーナの手にはいまだ黒一色の剣が握られているにも関わらず、女騎士は踵を返して無防備な背中を晒した。
「もう終わり?」
歩き出した女騎士の背中に、シルヴァーナは声をかける。
「目的は果たしたから……私達があんたの相手をしている間に、『御主人様』はセシアを回収して撤退完了〜」
「やっぱりそれが目的か……クロスティーナ怒るわね……勝ったのに賞品なしでバックれた〜とか言って……」
アリスとセシアはいつの間にかこの場から消え去っていた。
「クロスは勝っていないわよ。あんたが出た瞬間に、セシアに負けている……約束はあくまで『クロス』がセシアに勝った場合のみ……」
「……微妙な説得力ね……」
だからこそ、その理屈を強く主張するのではなく、さっさと『とんずら』したのだろう。
「まあ、あたくしとしては、それよりも光と輪を放ってきたモノに興味があるのだけど……」
アースノヴァのような光線を放ってきたのと、光輪を投げつけてきた人物が同一だということは確信していた。
「ああ、やっぱりあの子が一番気になるんだ?」
「あの子……」
「まあそうよね、ファネル・ファンネルの魔術や、私の大剣はあんたにとって何の驚異でもないものね。気になるのは呪いすら掻き消す光輪に、大地の精気を束ねた光……」
「ファネル・ファンネル?」
それが風の爆発を起こした襲撃者の名前なのだろうか?
「まあ、大地に属する力を持つのはあんた達だけじゃないってことよ。あの子が居るから、あんた達の魂は魔女にはもう無価値なのよ……残念ね」
立ち止まって振り向きながら話していた女騎士は、再び前を向いて歩き出した。
「…………」
シルヴァーナはしばらく黒一色の剣を見つめた後、空へと放り投げる。
黒一色の剣は、女騎士の目前に歩みを阻むように降り立ち、大地に突き刺さった。
「駄目にした剣の代わりにあげるわ。あたくしが持っていてもあんまり役に立たないようだし……」
「…………」
「あたくしがただの力の増幅器として使うより、貴方が使うべきよ……優れた剣は優れた剣士にこそ相応しい……それに……元々ラストエンジェルは貴方のモノ……あ、逆だったかしら?」
「…………」
「貴方がラストエンジェルのモノ?」
シルヴァーナが小首を傾げていると、女騎士が苦笑の表情で軽く嘆息する。
「この『私』はいらないけど……『剣』としてなら貰ってあげるわ」
女騎士は黒一色の剣を大地から引き抜くと、肩に担いだ。
「使い方は……貴方なら解るか。黒の呪いが解けない限りはあくまで最強の『剣』で『増幅器』に過ぎない……ラストエンジェルとしての特異能力は封印されたまま……」
「解っているわ。それに、私が使うんだから増幅器だけでも殆ど変わりないでしょう?」
「……言われてみればそうね……」
「……こうかな?」
黒一色の剣は、巨大な黒い極光の球体に包まれたかと思うと、どんどん縮小していき、女騎士の左掌に吸い込まれるように消失する。
「思ったとおり、器用ね……」
「……それじゃあ、クロスによろしくね」
手を挙げて別れの挨拶すると、女騎士は再び歩き出した。
「……タナトス……姉様には伝言ないの……?」
「…………」
女騎士は答えずに、シルヴァーナから遠ざかっていく。
「……さようなら、終焉の一欠片さん?」
「金行(白)の五色人形……金の妖精姫……いや、妖精姫を束ねる妖精女王リセット・ラストソード……それが今の私の肩書きよ……」
妖精女王リセット・ラストソードは森の中へと消えていった。



天空に一人の『天使』の少女が浮いている。
「…………」
純白のキャミソールドレスの丈はミニスカートぐらいしかなく、両足は白ブーツと白いオーバーニーソックス、両腕は二の腕(肘と肩の間)まである白い長手袋で覆われていた。
金色の髪は肩の上で一直線で切り揃えられていて、その頭上には光輝く天使の輪が浮いている。
背中からは、光輝でできた巨大な天使(鳥型)の翼が生えていて、優雅に羽ばたいていた。
「…………」
天使少女の両手には、彼女の身長よりも長い大筒が二門、側面で貼りついて一門の大筒となって地上に向けられている。
「おお〜い、クリちゃん〜」
真下……遙か遠くの地上から声が聞こえてきた。
「クリティケ〜、クリティケー・シニフィエ〜」
地上から少女を呼んでいるのは、金の五色人形こと妖精女王リセット・ラストソードである。
「…………」
天使少女は急行し、リセットの前に降り立った。
地上に降り立つと同時に、頭上から光輪が、背中から光翼が消滅する。
天使少女クリティケーが二門の大筒を宙に放ると、二問の大筒は一個のクマのぬいぐるみになって落ちてきて、少女に抱きかかえられた。
「…………」
少女の年齢は正確には解らないが11〜14歳ぐらいだろうか。
ぬいぐるみがよく似合う愛らしい少女ではあるのだが、愛らしいというには少女は無表情過ぎた。
透き通るような茶色の瞳には何の感情も浮かんでおらず、ただじぃっとリセットを見つめている。
「……んっ」
クリティケーはいきなりクマの首をねじ切るように外すと、中から何かを取り出した。
「内臓剔りだし……い、いや、別にいいんだけどね……」
どうもその『もの入れ』は悪趣味に思えて仕方ない。
「…………」
クリティケーは、白いケープを羽織り、大きくてふわふわな白いベレー帽を被った。
クマのぬいぐるみも、首が元の位置に戻される。
「可愛い分だけ、なんかグロく思えるのよね……」
ケープやベレー帽子どころか、二門の大筒まで、このクマのぬいぐるみに収納できてしまうことには、いまさら突っ込む気もなかった。
「クリティケー様、リセット様」
二人が向き合っていると、森の奧から二人を呼ぶ声が響いてくる。
「ファネル・ファンネル……迎えに来たの?」
姿を現したのは、浅葱色(青みをおびた薄い緑色)の髪を右肩で束ねて前に垂らし、真っ黒なポンチョ(四角形の布の真ん中に頭の通る穴をあけたもの)を着た十代後半から二十代前半ぐらいの女性だ。
三つ編みではなく、ピンクのリボンで緩やかに束ねただけの髪は、へその辺りまで伸びている。
瞳は光なき黒、生気や遺志の輝きといったものがまるで感じられない瞳だった。
そう、光を捉えない……世界を映さない、飾り物の瞳……。
「ええ、そろそろ時間切れですので……人形に戻ってしまうと帰るの苦労しますよ」
「あ、そうか……」
自分達三人は、セシアのようにアリスの許可を得て正式に現臨したわけではなく、勝手に現臨したため、この姿でいられるのは三分ぐらいだ。
人形に戻っても動けないわけではないが、空間転移どころか飛ぶこともできなくなるので、普通に歩いて帰られなければならなくなる……それも人形の歩幅でだ。
「じゃあ、帰りましょうか」
「…………」
リセットとクリティケーはファネル・ファンネルの傍へと移動する。
「では、参りましょう」
ファネル・ファンネルが呟いた直後、一陣の風と共に三人の姿は掻き消えていた。







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一言でいいので、良ければ感想お願いします。感想皆無だとこの調子で続けていいのか解らなくなりますので……。



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